貿易と国の力

ケインズ理論をはじめとする混合経済の原則が共通して受け入れられるようになったことが一因になって、ヨーロッパ諸国はさまざまな違いがありながらも戦後三十年間に結束を強めてきた。この結束を究極的な形であらわしているのが今日の欧州連合(EU)である。
 ‥‥中略‥‥
つぎの一歩は1957年に起こった。‥‥‥‥‥‥‥‥‥56年秋の激動(スエズ動乱で欧米同盟国が対立し、ハンガリー動乱ソ連が民衆運動を圧殺した)に衝撃を受けて、ヨーロッパ六カ国がローマ条約に調印し、「ヨーロッパが再出発した」。この条約で欧州共同市場(欧州経済共同体)が設立され、多様な経済が統合をはかる前例のない動きがはじまった。各国の結束をもたらした要因は三つあった。混合経済を目指す合意、ドイツ問題解決の目標、ソ連圏の脅威である。
こうして、西欧各国の政府は、経済に対してこれまでより大きな責任を果たそうとする一方で、ヨーロッパ統合への動きを開始して逆の方向にも動き出した。つまり、貿易と投資の障壁を減らしていくことで、政府の権限を譲り渡す方向に第一歩を踏み出したのだ。これは、貿易障壁を低め、貿易を拡大させていく大きな流れの一部であり、この流れが政府の力に対抗するものになった。